疾走 上下巻:重松清
2005年 12月 20日
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「誰か一緒に生きてください」
これが15歳の少年の内側から出てきた言葉。
それほど凄まじく痛々しく重い。
「浜」は「沖」を差別する、そんな二つの土地を舞台に
浜で生まれ育ったシュウジは4つ年上のシュウイチが
好きだった。シュウイチは学校始まって以来の秀才で
家は兄を中心にまわってきた。ところが優秀な高校に
上がり、親の期待に応えきれなくなった兄は壊れていく。
家の中も徐々に壊れていく。
放火魔−赤犬として捕まる兄。家を捨てて姿を消した父
酒浸りでギャンブルにはまっていく母、そして赤犬の弟として
いじめられる「おまえ」
リゾート開発の話が浮上し次第に溝を深めていく
「浜」と「沖」の人々。
ヤクザが幅をきかせはじめ壊れていく町。
いじめだけをテーマにした本ではありません。
この本は、ただただ人と繋がりたくて、ひとつになりたくて
やみくもに疾走する少年の物語。
疾走、まさにシュウジの生き様はその一言に尽きます。
この表紙のように。
話は、孤独、祈り、暴力、家族離散、セックス、聖書、殺人と
様々なテーマを持ち、語りかけてきます。
ラストは壮絶。
気が付いたら涙がこぼれていました。
悲しいなんて言葉じゃ甘いそんな涙です。
映画化もされてるのね。
と、サイトを見たら「ヤクザの女に手を出して折檻」と。
ほぅほぅ。折檻。
そんな生ぬるい描写じゃないです、原作は。
エログロが苦手な方は覚悟して読んでください。
あまりにひどすぎて吐き気すら(苦笑)
ただ、そういった描写があたしには「余計」には思えない。
むしろ必須。
ひとつになることを望んで、色々な人の「ひとり」を
背負ってしまった15歳の少年。
絵空事と捨てきれない重さ。
「流星ワゴン」とはまったく違った重松作品。
読み終わったあとはしばし放心。
by acha-books
| 2005-12-20 19:54
| :重松清
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