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クライマーズ・ハイ:横山秀夫
2007年 09月 05日 |
クライマーズ・ハイ:横山秀夫_a0104226_1282448.jpg
北関東新聞の古参記者、悠木和雅は、同僚の
元クライマー、安西に誘われ谷川岳に屹立する衝立岩に
挑む予定だったが、出発日の夜、御巣鷹山で
墜落事故が発生し、約束を果たせなくなる。
一人で出発したはずの安西もまた、山とは無関係の
歓楽街で倒れ、意識が戻らない。
「下りるために登るんさ」という謎の言葉を残したまま—。
未曾有の巨大事故。社内の確執。親子関係の苦悩…。
事故の全権デスクを命じられた悠木は、二つの「魔の山」の狭間で
じりじりと追い詰められていく。
(「BOOK」データベースより)

横山秀夫というと警察小説、社会派ミステリーといった
イメージ。それもそのはずもともとこの方、上毛新聞の記者だそうで。
そして実際に御巣鷹山日航機墜落事故取材を体験した一人。
——記録でも記憶でもないものを書くために、18年の歳月が必要だった。
とは著者の弁。

「沈まぬ太陽」が日航という組織を奥底まで調べ尽くし
書き上げたものに対して、こちらは新聞社という組織を
描ききっています。

地方新聞の一筋縄ではゆかない、どこか壊れ、異様とすら
思える人間関係はとてもリアル。そして
明日の記事のために、印刷にまわすその瞬間までの臨場感。
トップ記事に何を持ってくるかで政治的な絡みや社内の
派閥抗争があったり、記者としての社員、営業としての社員
それぞれの課ごとの牽制、男同士の仕事の上で嫉妬、
実にありそうと思えることばかり。

そしてベタとも思えるラストにひたすら涙。

確かに事故後に発見された遺書にまた涙したけれど
社内においての主人公悠木の生き様。
そして親子関係。

あえてこの小説で書かれていないのが
事故そのものの陰惨さ。
事故はたしかに「大きなもの」と位置づけられていますが
けっしてそこがメインではなく。

正直、これでいいの?と思うことがありました。
だってあの大事故だよ?それをテーマにした本じゃないの?
なのに同僚の容態を気にかけたりするシーンとかいる?
この登山の「現代」のシーンを差し込む必要あるのかなー。
なんか話がぶれてない?と。

ぶれてないんです。

そのシーンがあるからこそ、より「人の命」あの女子大生が
伝えたかったことが伝わる。
あたし自身、読んでいて人の命の重さ、軽さを
こうしてわけているんだ、と。

日航機の事故を扱いながらその事故に関わった新聞記者の
生き様を通してとても大切なことを訴えかけている。
決して読んで損のない作品というか
ぜひ読んで感じてほしい。

わずか7日間、そしてそこから17年の月日。
とても濃厚な読み応えのある本。
難しいテーマだし、はっきりいって出てくる人出てくる人
みんな影を持っている。抗えない様々な事情も絡み合う。
いったいどうなるんだ?と読む手は進むばかり。
そこに開かれる爽快とも思えるラスト。
読後がとてもよいです。
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