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生きる:乙川優三郎
2006年 09月 07日 |
生きる:乙川優三郎_a0104226_2144529.jpg
 第127回直木賞受賞作品。
「過去を舞台にしつつも、平成の今を
合わせ鏡にして生き難い人の世を生き抜くことを
真摯に問い続けた」作品。
生きていくのに一番大切な「尊厳」を
優しい視線で捉えています。
とてもとても暗いのに
心に暖かく沁みる本。

「生きる」
主君に寵遇され今の500石の家柄となった又右衛門の
主君に対する恩義は人一倍のものだった。
藩主に殉死するのが忠義の証と思われていた時代
当然、又右衛門もそう考えていた。
ところが梶谷家老に呼び出された又右衛門と
小野寺。そこで追腹を切ることをしないむねの
誓詞を書かされる。他言するなとも。

周りは真っ先に殉死するであろうと思っていた
又右衛門と小野寺に対し、冷たくなっていく。
臆病者と罵られながらも生き続けなければいけない
初老の武士の辛さ。やがて家族が崩壊してゆく。
それでも、又右衛門は死ぬことはできない。
誓詞に書いたことを守り通す。

これでもかこれでもかというくらいに
襲いかかる様々な出来事
死んでしまったほうが楽なのに「生きる」ことを
せざるを得ない男の苦悩。しかしその先には。

「安穏河原」
執政との意見の食い違いゆえ
己の信念の為、浪人に身を落とした素平。
武士としての筋は通したものの
考え甘く江戸にさえ行けば士官の口が
見つかるかと思いきや。。。
結局は、病を患った妻の薬の工面もつかず
生活は行き詰まり
素平は娘の双枝に女衒の前で言い聞かせるのだった。
「こういうことになったが何も悪いことはしていない
おまえも、これからどんなことがあろうとも人間の誇りだけは失うな」

「厳格だが安穏な世界に生まれた女が
苦界へ身を落としながら少しも狂わないのは
心の中に元の世界を持ち続けているからだろう」

遠い昔、家族で分け合った河原での光景
その思い出だけを胸に生きた父と娘。
そしてやさぐれた生活をし、何の取り柄も生き甲斐もない
若者のものの見方まですら変えていくその心の強さ。
「おなか、いっぱい」この一言がこんなにも哀しくせつない。

「早梅記」
貧困から這い上がり家老にまで出世した高村喜蔵。
すべて己の力だけでやってきたという過信。
それは誤りであり、自分を支えてきてくれたのは
妻のともであり、また家政として雇っていた
足軽の娘、しょうぶの二人であった。
数々のものを犠牲にし、得た地位と名誉。
家督を長男に譲り、隠居となり、妻が先立った。
得たものは屋敷と高禄、そして気持ちの
通わない家族だけ。
若き日の我が身を振り返る喜蔵。
自分はなんのためにここまでやってきたのか。
早朝の散歩の中、そこで見つけたものは。。。

3編とも暗いのに読後感がとてもいい。
それはこの作者の優しい視点からくるもの。
どの話もじわーんときますよ。
時代小説が苦手にな人にも読みやすい、さすが直木賞(笑)
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