さくら:西 加奈子
2007年 07月 20日
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スーパースターのような存在だった兄は
ある事故に巻き込まれ、自殺した。
誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後
内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。
僕も実家を離れ東京の大学に入った。
あとは、見つけてきたときに尻尾に
桜の花びらをつけていたことから「サクラ」と
なづけられた年老いた犬が一匹だけ——。
そんな一家の灯火が消えてしまいそうな
ある年の暮れのこと。
僕は、何かに衝き動かされるように
年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を
置き去りにして、実家に帰った。
「年末、家に帰ります。おとうさん」
僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に
微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた——。
(出版社 / 著者からの内容紹介)
まったく予備知識ナシで読みました。
僕こと長谷川薫が年末年始に実家へ帰ることから
始まり自分の家族の回想へ続きます。
働き者で純粋な心を持ち、宇宙で一番幸せな男のお父さんと
キレイで明るくて優しくて太陽のようなお母さん。
かっこよくて性格も良くて人気者のお兄ちゃんと
誰もが振り返るような美人の妹。
そして女の子らしい犬のサクラ。
若くして手に入れたマイホーム、幸せを絵に描いたような
なんてお決まりの言葉以上に幸せな構図。
でも僕の文章からは、それが過去の出来事であることが、
ちらちらと見え隠れする不安定さ、いったいこの家族は
どうなっていくんだろう?と読むスピードがアップ。
そう、幸せな構図が完璧であるからこそ
兄の事故を境にやってくる闇に
より一層、胸に迫ってくる様々な苦しみ。
でもよく読んでいけば決定的な出来事が起こる前から
少しずつ狂って行く歯車、不協和音、
この人達の異様さはちゃんと表現されてる。
それが事故以来、どんどん表に出て来ているだけ。
口を動かさなければ生きていけないかのように
食べ続けて太っていく母、どんどんやせ細って
仕事もままならなくなっていく父。
決して報われない愛に捕われている妹。
父が家族を捨てて出て行ったように東京に出た僕。
そして再会後、サクラがまた家族をひとつにしてくれる。
けれどこの本は決して「犬頼み」だけの本じゃない。
けれど
このサクラがすごくいい。サクラの「お喋り」がいい。
犬を飼ったことのある人ならきっとわかる。
そう、犬ってあたしたちにお喋りしてる。
確かにこれは、泣ける人には泣ける本なのかもしれないけれど
あたしは泣く以上に、胸を突かれた気分。なのに
読後感はなんかほんわかして暖かい。
とても満たされた気分。
ほんと、すごくいい本だと思うし、本屋大賞ノミネートも
十分納得。
読ませたいと思う反面、万人受けではないかなぁとも
思いつつ。。。
事故にあった後のお兄ちゃんの言葉。
神様はきっといて、みんなの心の中に一人一人いて
ずっとボールを投げてきている、と。
今までずっと直球だけを自分は投げられていたけれど
今回、投げられたボールはもぅ「打たれへん」
悪送球ばかり投げてくる。
「う、打たれへん」と。
すごく辛い。
(そんなシーンでサクラがボールという言葉に反応するのもまた
読ませる!)
けれど僕は最後に気づく。神様はピッチャーなんかじゃなかったことに。
そうしてまたサクラのお喋りが始まる。
とんでもなく素敵なシーンです。ぜひ読んで欲しい。
お母さんが小学生だった妹のミキにセックスについて
話してあげるシーンも素敵。
以下、実際にコレから読まれる方は、本文で読んだ方が
絶対にいいので流してください(笑)
魔法を使ってミキの素をお父さんにもらう。
でもメルヘンな内容で誤摩化したりなんかしません。
汚い!というミキに、ちゃんとお父さんのおちんちん大好きよ、と
言える。どうやって?と聞かれたらミキが生まれるとき
通って来た道の入り口をお父さんがノックして
お母さんはお父さんが大好きだから、どうぞってドアを開ける。
互いに好きで魔法を出し合ったその時から
「ミキやのよ。」と。「ミキ生まれてきてくれて、有難う」
ミキは理解できなくても、自分が
「とても大切な儀式」を通じて生まれたことを感じて
満足する。やがてセックスについて詳しく知ったとき
「自分が途轍もない確率でこの世界に生まれてきたことが分かって
感嘆の叫び声をあげた。」
んー、すてきすぎ。子供が詳しく知った後、すごい!と感じられるような
親の説明。素敵です。
by acha-books
| 2007-07-20 23:18
| :西加奈子
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